その昔、ある商人の家に生まれた隊商の長(おさ)が、たくさんの商人たちと旅に出た時のこと。
難路を行く途中、一行は枯れた古井戸を見つけ、水を飲むために掘り始めると、たくさんの鉄や瑠璃(るり)等の財宝が出てきたのです。商人たちは、出てきた財宝だけでは満足せず「もっとあるはずだ!」と言って掘り進めました。
すると隊商の長は言いました。
「商人たちよ、貪欲(とんよく)は破滅の根源です。もう満足し、これ以上掘り過ぎてはいけません」
しかし彼らは制止を聞かず、なおも掘り続けました。その結果、井戸の下に住んでいた竜王が宮殿を壊されたことに怒り、商人たちをみんな鼻息で打ち殺してしまったのです。そして隊商の長と財宝を車に乗せて故郷に送り届けると、再び宮殿へ帰って行きました。
隊商の長は財宝を売るとインド全土にあまねく布施(ふせ)をし、戒(かい)を受けて心身を清らかに保ちました。そして生命の終わりを迎えると、彼は天界に生まれたのです。
その時の竜王とは、お釈迦さまの弟子の舎利弗(しゃりほつ)であり、隊商の長とはお釈迦さまの前世でした。
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