「いただきます」
食事の前に言う一般的な言葉である。この言葉を皆さんはどうとらえているだろう。
ある女子高校では、一年生として入学して間もなく、生まれたてのヒヨコを二十羽ほど与えられ、学年全員で当番制で飼育する。まずは名前を付けるところから始まる。はなちゃん、ミミちゃん、こうたろう…それぞれに名前を付け世話をしていると、どんどん愛情がわいてくる。
春休みや夏休みも当番は回ってくる。最近ちょっと元気がない「はなちゃん」。どうしたんだろう?
「先生、はなちゃんが元気がないから病院につれていきたい」
母親のような気持ちになる生徒も現れる。当番でもないのに、ヒヨコが気になって姿を見せる生徒も。そして生徒全員が日々成長していくひよこを可愛がって、三年間育てていくのである。
やがてヒヨコは成長し、立派なニワトリになる。そして卒業を間近に控えたある日、先生から生徒に驚愕の一言が告げられる。
「次週の家庭科の時間、皆さんが可愛がって育ててくれたニワトリを、食用として皆さん自身でさばいてもらいます」
残酷なようだが、これにはちゃんと理由がある。いよいよ当日、まずは頚動脈を断たなければならない。生徒たちは皆、ただただ泣くばかりで、なかなか踏ん切りがつかない。当然だろう。三約年間可愛がってきたニワトリを殺さなければならないのだ。最終的には先生が手助けをし、さばき終わった。生徒たちは心身ともに疲れ果て、放心状態である。
翌日の調理実習の時間、さばいたニワトリでチキンカレーを作る。出来上がったチキンカレーを前に、生徒たちは手を合わせ「いただきます」と言う。この子たちはおそらく、生まれて初めて本当の意味の「いただきます」を心の底から言ったに違いない。日々様々な命を頂いて生きていることを、生徒たちは身をもって体験したのだ。
「いただきます」
この言葉の深みを皆さんも改めて考え、合掌して欲しい。
|