lotus column 過去に向かう by Chijo
what's new

 終戦から七十年を数える今年、檀家のK氏が九十八歳で逝去された。

 大戦中は軍艦の機関部を修理する技術者として戦地に赴き、マラリアによる高熱で生死の境をさまよったそうだ。そんな状況でさらなる激戦地への侵攻を命じた上官に反発し、殴られたこともあったが、結局踏み留まったおかげで今の命があると語っておられた。

 しかし、生きて日本に帰るのは並大抵なことではなかった。再び海に出たが、相手軍の猛烈な空爆に遭った。乗っていた艦からの迎撃も凄まじく、恐怖のあまりトイレに行くと、一斉放火による激しい振動で便器が割れていたという。

 隊列を組んでいた艦は次々と沈められ、日本にたどり着いたのは自分の艦以外には一隻のみ。後で知ることになるが、その一隻には戦地で亡くなった兄の遺骨が積まれていた。

 戦後、K氏はその技術を生かして水道業を営み、日本の復興に貢献された。仏壇には戦死した兄と早世した妹、両親と弟、そして九年前には奥さんの位牌までも加わり、一人、毎朝お経を読み、お題目を唱え続けてこられた。

 逝去される直前まで、月参りの折に朗々と読経されていた姿を思い出す。仏壇の前で手を合わせるその時間は、先立った皆と共にいる大切な時であっただろう。

what's newdiscourseseasontalesideadownloadlinkmyoabout "myo"site mapNOEC

HOME

Since 1999, Nichiren-shu Osaka Enlightenment Center. All teachings are opening up.