ある両親が、九才の子の余命宣告を受けた。悲しくない病気など一つも無いが、小児癌という病気はあまりにも悲しい。
気丈なお医者さんが、残された貴重な時間を家族と共に過ごせるようにと、在宅看取りに取り組んでおられる。彼は言う。
「天寿を全うされた方の場合、まだご遺族への声のかけようもあります。しかし小児癌の子供を看取った時は、ご遺族にかける言葉が見あたりません」
私は申し上げた。
「おうむ返しでいいんです。ご遺族が『今まで生きてきてこんな悲しみは初めてだ』とおっしゃれば、『同じ立場であれば、私は気が狂うかもしれません』とおっしゃって下さい。『どうしていいかわからない』とおっしゃれば、『同じ体験をすれば、私もそうだと思います』とおっしゃって下さい。相手の心に寄り添って差し上げて下さい」
すると彼はこう返した。
「おうむ返しをするため最初の言葉がでるまで、どれくらいの時間がかかると思われますか?」
「たぶん三十秒か、一分でしょうか。しかし、先生にはその百倍に感じられるでしょうね」
「三十秒、一分の辛さ苦しさがお分かりですか?」
「その苦しみを乗り越えることができますよ。心に体力をつけることです」
「心にも体力がつきますか?」
「トレーニング方法があります。それ仏道修行と呼びます」
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