小坊主のつぶやき |
五月初旬、毎月ご回向におうかがいする檀家(だんか)さんでのできごと。 「お上人さん、これ、仏さまのおさがりなんですが、お茶菓子の代わりにひとつどうぞ」と、二種類の果物をさしだされた。有り難く頂戴(ちょうだい)してお寺に持ち帰り、台所のテーブルの上にその二種類の果物を並べて、しげしげと眺(なが)めてみた。ビワとリンゴである。 考えてみると、その時テーブルの上に並べられた果物は、冬と初夏の代表的な果物であり、どう考えても五月のテーブルの上にはそぐわない気がした。 ご本尊(ほんぞん)さま、ご先祖さまに本当に高価なものをお供えし、それを私に下さったお檀家さんのお気持ちは大変有り難い。にもかかわらず、果物を見つめている私の心に去来(きょらい)する「?」の気持ちは何なんだろう。 「あなた達が失っているものは、季節感よりもっともっと大切なものなんだよ……」。耳元に仏さまのささやきが聞こえるような気がする。 |