のほほん評判記 |遺書 by Chijo

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のほほん評判記

image 著者/吉本隆明
発行/角川春樹事務所
価格/1,365円

 今この文章をお読みになっている方々の年齢層といえば、実際二十〜四十歳代の人かなりの割合を占めるでしょう。一方、今回ご紹介するこの本の著者は、当年とって七十四歳。なおも精力的に執筆活動を続けられているこの著者による「遺書」とは、果たしていかなる内容なのか。

 まずもってお断りしておかねばならないことは、この本が一般的に認識されている「遺書」という言葉通りの内容とは、違った視点を持って書かれている点である。いわゆる「私の死後には是非このようにしてほしい」というような希望といったものは本書には見あたらず、ただ現時点で著者が思う死というものについて、あるいは国家・教育・家族・文学についてが、伸びやかな散文として羅列(られつ)されているのだ。

 いささか過激とも思える本書のタイトルに反して、内容は意外に淡々としており、他人に対してというよりも、むしろ自己への誠実さを感じ取ることができる。最後まで私的な印象の強いその内容からすると、このタイトルもまんざら的外れとは言えない。

 著者が本書を執筆するに至ったのは、どうやら本人の水難事故による瀕死(ひんし)の経験がきっかけらしいが、なるほど人は死に臨(のぞ)んだ時、それまで以上に自己の存在というものを、客観的に見つめ直せるものなのかもしれない。とりとめのない文章の中にも、著者の自分を見つめる真摯(しんし)な眼差しは一貫している。特に現在の学校に対して「建前と本音を分裂させない方法を作り出すための遊び場所にすればよい」と、さらっと言ってのけるところなんざ、自らの少年期の感情にのっとった、偽(いつわ)りない自己分析の賜物(たまもの)だろう。

 後半の文学についての章は、有る程度の造詣(ぞうけい)がないと理解しがたく、著者の回想録に関しても、同世代の読者でないとなかなか共感には至らないだろう。しかし本書の中には、今後の教育や政治の目指すべき方向性が、確かにエッセンスとしてちりばめられている。

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