のほほん評判記 |
ファウストに出てくるメフィストフェレスのような悪魔かと思っていましたが、だいぶ違いました。あまり擬人化されておらず、あそこまで世俗的ではないです。 鹿野苑(ろくやおん)、王舎城(おうしゃじょう)、竹林精舎(ちくりんしょうじゃ)、霊鷲山(りょうじゅせん)といった場所を遊行(ゆうぎょう)するブッダが、各地で民衆や修行者を相手に教えを説かれます。それを近くで聞いていた悪魔は、怖がらせてやろう、あるいは眩惑(げんわく)させようと近づき、そのつど退けられます。ブッダの言葉の前に打ち萎(しお)れ、憂いに沈み、その場で消え失せることになるのです。 短いセンテンスの問答形式ですが、悪魔が巧みに人間の持つ弱さに付け込むところは秀逸です。いろいろな欲、執着、憂い、寿命。それは現代社会においても変わらない人間の普遍的な悩みでしょう。それらに対する悪魔の甘言(かんげん)や恫喝(どうかつ)に、ブッダが簡潔な言葉で対処していきます。つまり悪魔を撃退するわけですが、逆にそれは我々への戒(いまし)めでもあり、日常生活の指針でもあります。 どれもすごく短い話ばかりですので、頭から読み進めるより、座右(ざゆう)にあって思いつくままにページを開き、二〜三度読むようなスタンスの方が身に染むような気がします。 他に、『ブッダのことば』『ブッダ最後の旅』等があります。 |