のほほん評判記 |
七年ほど前に一時、タイトルに妖怪のついた書籍が書店にあふれました。鳥山石燕(とりやませきえん)の画集、京極夏彦の小説、水木しげるの漫画。魑魅魍魎(ちみもうりょう)を退治するキャラクターでは、安倍清明(あべのせいめい)が大活躍でした。 本書も出版は当時ですし、著作の多くには妖怪の他に魔界・憑依(ひょうい)・怨霊といったキーワードが並びます。一見すると純和風オカルト作家のようですが、書店では民俗学の棚に並んでいますのでご安心下さい。 全国のローカルな地域で地道に採集した口承伝説・宗教儀礼、古典文学や絵巻物などの資料から仮説を立て検証し、当時の宇宙観や隠喩(いんゆ)を読み取るといった手法から導き出されるヴィジョンは新鮮です。 本書では、妖怪や怪異を撲滅すべき迷信とする現代人の視点を省みて、自然に対する畏怖の念や社会で感じる不安や恐怖が、妖怪を生み出すとしています。妖怪は人と人、あるいは人と社会といった関係性の中から創出されることから、傘から脚の生えたのや河童等が姿を消しても、現代には現代に即した不思議な存在が人々によって語られ続けると結んでいます。「私きれい?」と訊きながら日本列島を北上して行った鬼女、学校のトイレに出没するあやかしの例を挙げれば、それも首肯(しゅこう)できるでしょう。 |