昔々、パターチャーラーという長者の娘がいました。彼女は親に背いて家出をし、遠い村で結婚していたのです。
やがて子供も生まれ、二人目の時は実家でお産しようと、夫や子供と共に旅に出ましたが、途中大嵐の中で出産をむかえてしまいます。そしてその夜、何と夫は毒ヘビにかまれて死んでしまい、さらに二人の子供までも、増水した大河にのまれてしまいました。
そうして一人ぼっちになって嘆(なげ)き悲しむ彼女が、やっと実家の近くに辿り着いた時、彼女の父母も前夜の嵐で亡くなったことを聞かされるのです。
大声で泣きながらさまよっていた彼女は、静かな木陰(こかげ)で説法をしているブッダに出会いました。すっかり気が動転して衣服も脱げ落ちたまま近づく彼女に、ブッダはやさしく声をかけたのです。
「妹よ、気を確かに持ちなさい。案ずることはない。遠い昔から今まで、子を失った親が流した涙の量は、四つの海の水の量よりも多いのだ。無常の世にあって真のよりどころとなるのは、夫や子供・父母ではなく、涅槃(ねはん)の世界だけなのだよ」
それを聞いて、パターチャーラーの悲しみは次第に薄らいでいきました。やがて彼女は出家して修行を積み、聖者の位にまでいたることができたのです。
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