昔々ある街で、人々が歌い踊ってお祝いしていると、瓶(かめ)を持った一人の女性が通りかかりました。
「さあ、一緒に踊りましょうよ」
あまりに楽しそうなので、彼女は誘われるまま踊りの輪に加わりました。すると皆も口々にはやし立てたので、彼女もつい調子に乗って夢中で踊ったのです。
と、その時です。彼女は急にお腹を押さえ「い、痛い!」とうずくまりました。実は彼女のお腹には赤ちゃんがいたのですが、夢中で踊ったため死産してしまったのです。皆も初めは心配して集まりましたが「お腹に赤ん坊がいるくせにあきれた人だ」と、薄情にも彼女を置き去りにしてしまいました。
しばらくすると、涙を流して悲嘆(ひたん)に暮れていた彼女の前に、どこからともなく一人の聖者が現れ「あなたの願いを一つだけ叶(かな)えましょう」と告げました。彼女はとっさに恐ろしいことを思いつき、瓶の中の飲み物を聖者に捧げると、こんな願いを起こしました。
「皆に同じ苦しみを味あわせてやりたい。生まれ変わって、この街の子供たちを一人残らず食ってやろう!」
そう、彼女こそ鬼子母神(きしもじん)の前世だったのです。
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