私は、このように伝え聞きました。
そのとき大勢の偉大な菩薩(ぼさつ)や聖者たちをはじめ六千人にも及ぶ尼僧(にそう)たちが、お釈迦(しゃか)さまがこの世から去られた後も、この法華経(ほけきょう)を広く未来の人々に説き弘(ひろ)めることを誓われました。そしてお釈迦さまは、慈愛に満ちたまなざしをもって彼らを励まされたといいます。
するとその時、さらに大勢の者たちが一同に立ち上がり、お釈迦さまに向かって合掌しました。八十万億那由他(はちじゅうまんのくなゆた)という、それはそれは気の遠くなるような数の菩薩たちだったといいます。彼らは皆一様に、ひるむことなく修行に励み、尊い教えを世に弘め続けてきた菩薩ばかりでした。そして彼らはお釈迦さまの前で、法華経を弘める者に対して起こる数々の迫害を乗り越えて、教えを守り伝えていくという誓いを、『二十行の詩句』に込められて唱えたのです。その詩句のなかで彼らは、迫害を加える者とは次のような者たちであると語っています。
「まず始めに愚かな人たち。彼らは法華経を弘める者に対して悪口を言ってののしり、さらに刀や杖(つえ)などで打ちかかるなどの危害を加えることでしょう。次には邪悪な知識を持つ心の曲がった僧たち。彼らは自分が悟(さと)りを得たと思いこみ、法華経を弘める者をさげすむでしょう。そして人々から俗に「聖者」と仰がれる僧たち。彼らは人々からの信頼をかさにきて悪心を起こし、『法華経を弘める者は、にせものの経典をつくって名声を得ようとしている者だ』と、国王や大臣を始め地位のある人々や、知識人・大衆の前で中傷(ちゅうしょう)することでしょう」
このように、お釈迦さまが世を去られてから法華経を弘めていこうとする者には、数々の迫害が起こるであろうと菩薩たちは予言しました。けれども彼らは決して恐れることなく、自分の命よりも尊い教えを守るため、鎧(よろい)のように堅固(けんご)な心で耐え忍び、法華経を弘めることを誓うのでした。
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