お釈迦(しゃか)さまが入滅(にゅうめつ=亡くなること)された後の悪世においても、ひるむことなく法華経(ほけきょう)を説き弘めることを誓った大勢の菩薩(ぼさつ)たち。彼らは皆、修行も智恵もいまだ浅い『初心の菩薩』たちであったといいます。そこで、この様子をじっとご覧になっていた文殊師利(もんじゅしり)菩薩は、お釈迦さまにこうお尋ねしました。
「釈尊(しゃくそん)よ、釈尊がこの世から去られた後の悪しき世において、法華経(ほけきょう)を説き弘(ひろ)めることを堅く誓ったこれら菩薩たちは、実際どのようにそれを行えばよいのでしょうか?」
このような文殊師利菩薩の問いに、お釈迦さまは次のようにお答えになりました。
「それには『四つの安楽行(あんらくぎょう)』をしっかりと心得て穏やかに修行し、法華経を説かなければならないのだ」
そうしてお釈迦さまは、四つの安楽行のうち第一番目を説かれました。
「菩薩たるべき者は常に忍耐の心、穏やかで素直な心を保ち、決して乱暴な気持ちを起こすことなく、何事にも驚かず、いかなる事にも執着せず、あらゆる存在をあるがままに観察するよう心がけて行動しなければならない。
また菩薩が近づくべき人、すなわち交際範囲にも注意が必要である。国王や王子・役人たち、或いは様々な異教徒や仏の教え以外の書物を著す者たち、そして格闘を始め娯楽をなす者・狩猟者などに、親しみ近づいてはならない。さらに女性に対して思い入れを持って法を説いてもいけないし、年少の弟子や少年少女を望んで養育してもならない」
お釈迦さまはこの他にも様々な戒(いまし)めを示されますが、すべてのものは変化し移ろいゆくものであるから、常に物事の真理を見極めるべきであると説かれました。この第一番目の安楽行を『身(しん)安楽行』というのです。
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