すでに「四つの安楽行(あんらくぎょう)」の内、身(しん)安楽行・口(く)安楽行・意(い)安楽行の三つが明らかにされました。そしてお釈迦(しゃか)さまは今、最後の一つを解き明かされようとしています。
「文殊師利菩薩(もんじゅしりぼさつ)よ。仏の教えが滅びようとする世にある人々は、仏がそれぞれにふさわしい説き方をした教えを見失い、さらには仏の真実の教えを信じず、理解しようともしなくなるであろう。その様な時こそ、菩薩たるべき者は正しく法華経(ほけきょう)を持ち、大きな慈悲心(じひしん)を起こさねばならない。その神通と智恵の力によって、仏道を志す者、またそうでない者を問わず、法華経の教えに導いてそこにとどまらせる事ができるよう、誓いを立てるべきである」
すなわち菩薩たる者は末法の世において、すべての人々を法華経の教えに導き入れる誓いを立て、その実現に努力することが大切であると説かれました。この第四番目の安楽行を「誓願(せいがん)安楽行」というのです。そしてこれら「四つの安楽行」を達成しようとする菩薩は、天のすべての神々より讃(たた)えられ、また守護を受けることが約束されるのです。
法華経の教えがいかに大切で、それを持つのにいかに堅い誓いが必要なのか。それをお釈迦さまは、こんなたとえ話をもって諭(さと)されました。
「その昔、強大な力を持つ転輪聖王(てんりんじょうおう)が、正義に従わない諸国と戦(いくさ)をした時のこと。王は功績を挙げた兵士に種々の財宝を与えたが、自分のもとどり(髪を頭上に束ねた所)の中に収めている宝玉だけは、最後まで誰にも与えることはなかった。しかし最も大きな功績を挙げた者に対しては、その大切な宝玉を授け与えたのだ」
この転輪聖王と同様にお釈迦さまも、修行を妨げる種々の魔王と戦う仏弟子がそれらを完全に破った時、その功績に酬(むく)いて未だ明らかにしなかった最上の教えである法華経を説き示すというのです。
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